# くものすにあさつゆかかればはれ
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蜘蛛の巣に朝露かかれば晴れ

種類:その他格言
「蜘蛛の巣に朝露かかれば晴れ」は本当か。放射冷却と凝結核の理科で答え合わせすると、朝露は「昨夜は雲がなく風も弱かった」ことの証言だった。世界最古の無資格気象予報士・蜘蛛の営業報告と、三年前の宣言の経過報告。
「蜘蛛の巣に朝露かかれば晴れ」
天気予報のない時代、人々は身の回りの現象から経験的に天気を読んできた。 これがいわゆる観天望気(かんてんぼうき)である。
夕焼けなら明日は晴れ。ツバメが低く飛べば雨。猫が顔を洗えば雨。 ことわざとも格言ともつかないが、 何百年も伝承されてきた、庶民の気象学だ。
さて、朝露をまとった蜘蛛の巣は、本当に晴れの前ぶれなのか。 昔の人の経験則を、現代の理科で答え合わせしてみよう。
まず、朝露がどうやってできるかを整理する。
1. 放射冷却。
夜、空に雲がないと、地表の熱は遮るものなく宇宙へ逃げていく。 これが放射冷却で、雲のない晴れた夜ほど、明け方の気温は大きく下がる。
2. 飽和。
気温が下がると、空気が抱えられる水蒸気の量は減る。 限界(飽和)を超えた分の水蒸気は、行き場を失う。
3. 凝結核。
行き場を失った水蒸気が水滴になるには、足がかりが要る。 蜘蛛の糸の表面には微細な凹凸があり、 これが凝結核として絶好の足がかりになる。 かくして糸の一本一本に、真珠を連ねたような露が並ぶ。
ここで気づいてほしいのは、朝露が語っているのは 「今日の天気」ではなく、**「昨夜の天気」**だということだ。
露がびっしり付いた蜘蛛の巣は、こう証言している。 「昨夜は雲がなく、よく冷えました。 それから、風も弱かったです(強風なら露は付かないし、巣も壊れます)」
雲がなく、風が弱い夜——それは、その土地が 高気圧に覆われているしるしである。 そして高気圧は、一晩でそそくさと立ち去ったりしない。 昨夜を支配した高気圧は、たいてい今日もまだ、居座っている。
だから、蜘蛛の巣に朝露がかかれば、今日は晴れ。
判定:この言い伝え、真である。 昔の人は、放射冷却も凝結核も知らずに、 観察だけで正解にたどり着いていたのだ。恐れ入る。
こうして見ると、蜘蛛の巣とは、 獲物を捕る網であると同時に、天然の気象観測装置である。
湿度計であり、風速計であり、 夜間の雲量まで記録して、朝一番に結果を掲示する。 観測から発表まで、完全に無人・無電源。
つまり蜘蛛は、人類が百葉箱を発明するはるか前から、 路地裏で毎朝、天気予報を出していたことになる。
もっとも、蜘蛛本人に予報の自覚はない。 自覚なしに正確な仕事をするあたり、 そこらの予報士より、よほど手強い。
ところで、作画のために思い返して、寂しくなったことがある。
子供の頃、朝日にきらめく露の巣は、 路地裏でいくらでも見られた。 あれは文句なしに美しいものだった。
ところが最近、蜘蛛の巣を、とんと見かけない。 貧乏くさいと取り払われてしまうのか、 それとも蜘蛛そのものが減ったのか。
天気予報がスマホで分単位になった時代に、 天然の観測所のほうは、静かに閉鎖されていく。 予報の精度と引き換えに、 朝の路地から、真珠の網が消えたのである。
観天望気は、当たるかどうかの前に、 空と地面をよく見る習慣のことだった。 その習慣ごと、失われていくのは、少しもったいない。
さて、このページの旧版の私見に、私はこう書いていた。
「気象予報士を目指してちょっと勉強中」
三年が経過した。経過報告をせねばなるまい。
まったく、勉強していない。
テキストは開かれず、試験日は調べられず、 気象予報士は、夢のまた夢どころか、 夢に見ることすら忘れていた。
だが、開き直らせてもらう。
蜘蛛を見よ。 彼らは無資格のまま、何億年も予報業を営んでいる。 観天望気とは、そもそも資格のない者たちの気象学なのだ。
というわけで私は、試験勉強の代わりに、 猫の洗顔、ツバメの低空飛行、夕焼けの色—— 言い伝えの答え合わせを、こうして一つずつ続けることにした。
蜘蛛の巣に朝露がかかった朝は、どうぞ空を見上げてほしい。 無資格の予報士たちの見立てでは、本日、晴れである。
蜘蛛の巣に朝露かかれば晴れ|世界最古の気象予報士について

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