私は、流行りのスポーツやイベントには、割と敏感に反応するほうだ。
世の中で話題になり始めた瞬間、 「これは需要が出る」と踏んで、すぐにイラスト化する。 需要を先読みして絵を用意しておく、というのは、 この連載でも何度か語ってきた、私の得意技の一つである。
だが、この戦略には、当然、代償がある。
流行り始めたばかりの物事は、情報が十分にそろっていない。
近年、人気の高いマリンスポーツに、SUP(サップ)がある。 Stand Up Paddleboard——ボードの上に立ち、 パドルを漕いで水面を進む、あれである。
私は、これをいち早くイラスト化した。
取材は、していない。 現地に行ったわけでもない。 テレビでざっと見た映像と、印象だけを頼りに、 十分なネット検索もせず、絵にしてしまった。
われながら、フットワークの軽さには自信があるが、 その軽さが、そのまま裏目に出ることもある。
公開後、SUPに詳しい知人から、こんな指摘を受けた。
「ライフジャケットの着用もない。 リーシュコード(ボードと足首をつなぐコード)の装着もない。 こんな状態でこの女の子は、無事に帰ってこられるとは思えない」
……ぐうの音も出なかった。
SUPは、見た目より水難事故のリスクがあるスポーツだ。 ボードから落水した際、ライフジャケットがなければ浮力の確保が難しく、 リーシュコードがなければ、流されたボードに二度と追いつけない。 どちらも、実際の指導や販売の現場では、着用が強く推奨されている装備である。
それを、私の絵の中の彼女は、両方とも身につけていなかった。
なぜ、着けなかったのか。
理由を、正直に告白する。
ライフジャケットを着せると、ボディラインが可愛くないから、である。
知人には、こう返した。
「ごめんね。でも、ライフジャケットを着せると、 ボディラインが可愛くないんだよね」
——今、あらためて文字にすると、 なかなか危うい発言である。 可愛さを優先して、安全装備を省く。 笑い話のようでいて、実際にはあまり笑えない選択だった。
SUPの一件を機に、他のイラストも見直してみると—— 似たような「不適切さ」は、他にも点在していることに気づいた。
安全帯なしの高所作業、 ヘルメットなしの自転車、 装備不十分なアウトドアの一コマ——
流行に飛びつく速度を優先するあまり、 正確な取材や検証が後回しになった絵が、 15,000点を超えるギャラリーの中には、まだ紛れ込んでいる。
この場を借りて、正直にお伝えしておきたい。
当ギャラリーのイラストの中には、 実際の安全基準や、正しい装備を反映していないものが含まれています。
とりわけ、スポーツやアウトドア活動を描いた絵を、 実用的な記事や啓発資料などにご利用になる際は、 装備や姿勢が実際の安全基準に沿っているか、 念のため、ご自身でもご確認いただければ幸いです。
可愛さを優先して、安全を後回しにした絵が、 現実の誰かの油断につながっては、元も子もない。
流行に飛びつく速さは、これからも私の武器であり続けると思う。
だが、速さの代償に、正確さを差し出しすぎていないか—— これからは、もう少し、意識しておきたい。
この絵自体は、すでにあちこちで引用されているため、 描き直すことはしなかった。 その代わり、タイトルに一言、添えることにした。
「海でSUP(サップ)を楽しむ若い女性 (ライフジャケットとリーシュコードの装着は必須だよ)」
可愛さは、このまま。 だが、これを見た誰かが、 実際の海で装備を省く言い訳にだけは、 してほしくない。
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